ヘルベチカ Helvetica 世界中に愛される定番タイポグラフィと意外な誕生秘話





  最近、仕事の種類が増えて頭の切り替えが追いつかないアルバトロデザイン代表 猪飼です。 ブログの更新が遅れて大変申し訳ないです。 さて、本日はデザインの永久定番と言われるスイスの定番フォント「ヘルベチカ」についてです。 1957年にスイス・スタイルの合理デザイン向けに生まれた書体ですが、現在に至るまで50年以上に渡り世界の定番フォントして様々な国で幅広い用途に使用されています。 公共機関での正式採用も多く、日本でもJRの標準タイプ駅名標として採用され話題になりました。 モリサワの新ゴシックが日本語フォントとしては抱き合わせでよく採用されています。 そんなタイポグラフィの王様ヘルベチカですが、誕生には意外なストーリーがありました。

1.ヘルベチカ Helvetica 誕生まで

1957年に誕生して以来、日本を含む世界中で最も多用されているタイポグラフィ ヘルベチカ Helveticaですが、その誕生は意外なものでした。 1957年当時、タイポグラフィというのは金型活版印刷が主流でした。 新しい書体が欲しい場合は、各印刷所で金属を削って活字の版を作る必要がありました。 スイスのハース社は新しい書体を開発するべく、マックス・ミーディンガー(Max A.Miedinger)というタイポグラフィ・デザイナーにデザインを依頼しました。 これが後のヘルベチカとなります。

しかしこの書体のデザイン依頼はそもそもオリジナルのものを作るという依頼ではありませんでした。Akzidenz-Grotesk(アクチデンツ・グロテスク)という名前のドイツの書体をコピーすることが目的でした。 つまり、「ドイツのアクチデンツ・グロテスクという書体が欲しいので、似たような文字の活版を作って欲しい。」といった依頼でした。 タイポグラファーのマックス・ミーディンガーは、折角だからただのコピーではなく、完璧な物を作りたい! と思い、同僚のエデュアード・ホフマンと一緒に観ていて、最も心地がよくなるような書体を考え続けました。

こうしてできた書体がノイエ・ハース・グロテスク(Neue Haas Grotesk)でした。 これは新しいハース社のグロテスク書体(グロテスクはサンセリフ体=ハネの無いシンプルな書体を意味します)という意味です。
現在のヘルベチカの「原型」です。 マックス・ミーディンガーはこの書体に大変満足し、これはハース社だけでなく書体のデザインとして世界に売れる、と考えました。 そこで書体にオリジナルの名前をつけて世界に向けて版権販売を試みました。

 

Helvetica – Official Trailer
ドキュメンタリーDVD「Helvetica」のトレイラー
世界中に広がるヘルベチカを見ることが出来ます。

2.Helvetica 命名の秘話とタイポグラフィの版権販売

ノイエ・ハース・グロテスク(Neue Haas Grotesk)の完成に伴い、世界に書体の版権販売を考えた末、当時のスイスの合理主義(なにを伝えたいかをはっきりと伝える考え)デザインに沿って究極の「認識しやすい」書体として生まれた書体にラテン語で「スイス」という意味のHelvetia(ヘルベチア)という名前をつけようとしました。

しかし、書体に国名をつけることはよくないという事になり、ヘルベチアHelvetia(=スイス)という名前を却下して、ヘルベチカHelvetica(=スイスの)という名前に変更しました。 こうしてヘルベチカの名前を冠した書体は、世界へ羽ばたきました。 マックス・ミーディンガーの予想通り、ヘルベチカは世界中で人気沸騰します。 コピー元のドイツでさえ、ドイツ鉄道の正式書体に採用し、アメリカ、イギリス等の公共機関や世界のトップ企業はこぞってヘルベチカを「究極の書体」として採用していきました。

  

 

 

3.Helveticaの進化

アクチデンツ・グロテスクから進化した変更を加えて誕生したヘルベチカですが、その完成度は他の書体からは類を見ないクオリティでした。 ヘルベチカはよく「非常にニュートラルで、強いクセを全く持っていないのに機械的な無機質さと、人間臭さを兼ね備えている書体」と表現されます。 誠実さや、信頼があり、なによりも普遍的です。 何も持っていないが、全てを兼ね備えているヘルベチカは、率直な分かりやすい表現をデザインの要とするスイスの合理主義のコンセプトと正に合致するものでした。

予想以上に世界中でヘルベチカが汎用すると共に、活字が簡単に写植できる時代になるとヘルベチカのコピー書体が世界に溢れるようになりました。 文字にはウェイトといって、太さによって微妙にそれぞれ違った厚みがあるのですが、 ヘルベチカは太いウェイトの書体を最初に用意していなかったため世界各地で様々な太さが出来てしまいました。

こうした状況は活版印刷時代では問題無かったのですが、コンピュータで文字を組み上げる電算写植の時代になるとしっかりと全ウェイトをデザインされた正式なヘルベチカが必要となりました。 そこでステンペル社は1983年にヘルベチカの改訂版 Neue Helvetica (ノイエ・ヘルベチカ)を発表します。 ノイエ・ヘルベチカは51ウェイトという膨大な種類のヘルベチカを完成させました。 現在、ステンベル社はライノタイプ・ライブラリ社により合併され、商標もライノタイプ社に移行しました。

 

 

4.Helveticaまとめ

警察や公共機関、一流企業にまで浸透しているヘルベチカは、Neue Helveticaノイエ・ヘルベチカの誕生で完成しました。 アップルコンピュータの初期実装書体としても導入され、WindowsにもコピーフォントであるArial が導入されました。 世界に愛され続けるヘルベチカですが、50年以上に渡る不動の安定振りには反対の声もあるようです。 アメリカを中心に、モダニズムの時代にデザイナーの間でヘルベチカ反対運動も起きたようですが、結局は沈静化されヘルベチカが今に至り繁栄し続けました。 逆にヘルベチカしかほとんど使わないと言うデザイナーもかなり多いのも事実です。それも、50年に渡ってです。 人間の作るものは完璧なものはあり得ないといいますが、完璧に近いものを作る技術はまだ人間にも残されているのかもしれませんね。
こうした、「果たしてヘルベチカは完成されたデザインなのか? 書体の最終形態なのか?」という答えの無い問いこそが、人々が感じるヘルベチカの魅力でもあり、恐怖でもあるのかもしれません。 ちなみにこの論争は、ヘルベチカというドキュメンタリーDVDで世界のデザイナーが討論しています。

 

 

 

Helvetica in Motion – Kinetic Typography
ヘルベチカを使ったアニメーション

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3 Comments

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