職場に時報機能を取り入れ、30分おきに時報を鳴らしてストレッチに励むアルバトロデザイン代表 猪飼です。 ようやく腰痛も緩和され、春の陽気の中アウトドアに出かけたい気で満ち溢れています。 そんな中、本日はヤング・ブリティッシュ・アーティストを代表するダミアン・ハーストについてです。 以前紹介したロン・ミュエク同様、イギリスのサーチ・ギャラリーによって一躍有名になった若手イギリス人アーティスト達をヤング・ブリティッシュ・アーティスト(そのまま、「若い英国アーティスト」という意味)と呼び、1990年代以降のコンテンポラリー・アートの方向性を位置づけたといっても過言ではないほどの影響を世界に与えました。 しかし、動物の死体を扱ったグロテスクな作品により動物保護団体からの攻撃や、自身の薬物依存、アーティストのセレブ化等今までに無いほど多くの問題を抱えたアーティストでもありました。 

1.ダミアン・ハースト

今最もイギリスで力を持っているアーティストとまで言われているダミアン・ハーストは、その作品の奇抜さだけでなく、いままでの英国のアーティストには無い言動や企画力、奇抜な活動でさらに賛否両論を呼んだ人物でもあります。 しかし、物議を醸す挙動だけでなく、作品に対する最高の作品という世界的な評価もまた事実です。 では、何故彼はアート界のみならず世界的に注目される人物となったのでしょうか。

ダミアンハーストはロンドンのゴールドスミス・カレッジの美術科在籍中に、自ら企画した展示会”Freeze”を開催しました。 1991年に廃ビルで開催されたFreezeはゴールドスミス・カレッジでの学友達と自分達のアート作品を多くの人に観てもらうことが目的で、ダミアン・ハーストは生と死をテーマに、動物の死体などを使用した奇抜な作品を展示しました。 サーチ・ギャラリーのオーナーであるチャールズ・サーチ氏に大変気に入られたダミアン・ハーストと数人の学生はこれを機に同年、本格的な展示会を開催します。 この時選出されたアーティスト達こそが、後にヤング・ブリティッシュ・アーティスト(以下YBA)と呼ばれるメンバーの母体となります。 ダミアンハーストは、ホルマリン漬けのサメをガラス水槽に入れた作品「The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living」で一躍有名になります。 このホルマリン作品はアート誌のみならず、世界中のデザイン誌や経済誌、新聞やインターネット等ありとあらゆるメデイアで紹介されました。

 さらにダミアン・ハーストは1993年に牛と子牛を真っ二つに切断してホルマリン漬けにした作品でさらに話題は高まったものの、彼の作風に対する講義の声も拡大します。 アーティストとしてだけでなく、キュレーターとしての才能も長けていたダミアン・ハーストは、こうした彼に対する抗議の声こそが彼を有名にさせる起爆剤であると理解していました。 ダミアン・ハーストはYBAの仲間と世間を騒がせるような作品を輩出し続け、1990年代から2000年代にかけて常にアート界の話題の的となります。

2.ダミアン・ハーストの戦略的アート活動

アーティストとしての才能だけでなく、世間を騒がせる企画力も兼ね揃えていたダミアン・ハーストは次々と奇抜な作品を発表しつつ、メディアへも進出していきます。 自らをアーティスト・セレブであると認識し、著名人との友好関係を大切にし、露出することでキャラクターとしても確立していきます。

ダミアン・ハーストのスタジオは50人ものスタッフを雇い、4つのスタジオを運営するまでになりました。 さらには古い領事館を買収して自ら集めたコレクションを展示するギャラリーを運営したり、ファーマシー(薬局)という名のカフェの運営、さらに自らの作品をオークションへ直接販売したり(本来アート作品はギャラリーへ販売し、ギャラリーがオークションへ作品を出品します)と、型破りなアーティストとしての活動が目立ちました。 こうした活動の結果、ダミアン・ハーストは年々作品の価値が上がり続け、デビューから毎年倍近く値段が上がり続けています。

こうしたダミアン・ハーストの活動や友好関係を強く否定する一部のアート界からの弾圧もある一方、イギリスのベッカムがヴィクトリア夫人に婚約プレゼントとしてダミアン・ハーストの作品を購入したり、ダミアン・ハースト自身バンドを組んでサッカーの応援歌を作ったりと、他のアーティストにはない活動も注目されています。

そんなセレブやサッカー界との付き合いも多いアーティスト、ダミアン・ハーストですが、人物として変わっている部分も多く、展示会のオープニングには常に母親と一緒にいるというマザコンぶりが指摘されていたり、アルコールや薬物中毒に溺れ、ろくに新しい作品が制作できない状況が続いたりと、人間的な問題も指摘されています。 友好関係が多い分、摩擦も多く、ギャラリーとの付き合いも年々変化し、自らを見出したチャールズ・サーチとの決裂(サーチから全ての作品を買いもどす等今も問題が多く発生しています)を筆頭に対人関係の問題も指摘されています。

 

3.ダミアン・ハーストの作品

アーティストとしての作品よりも、アート以外の言動や活動が注目されだしているダミアン・ハーストですが、これだけ注目されるのも作品が斬新であるからです。 ダミアン・ハーストの作風は一貫して「生と死」がテーマとされていますが、アプローチ方法は様々です。

「生と死」を表現するダミアン・ハーストの、別の代表的表現手法と言えるのが「医療的な表現」です。 医療の持つ冷酷で不干渉的なイメージを、動物の死体等を利用して「死」を表現するというのが初期の「ホルマリン漬け」シリーズの代表的な表現方法でした。 しかしダミアン・ハーストの表現は次第に抽象的になり、蝶やハエの死体を大量に使用してハートを作るなど、ブラックユーモアの効いた作品へと変化します。

また、医療シリーズでは医薬品や医療器具を使用した作品が目立ちました。 人体解剖模型や、薬の瓶を中心に、医療機器をアート作品のモチーフとしました。 こうした作品の中には絵画や、立体作品等実に様々な形態で作品を発表していますが、どれも制作自体は外注であったり、自身のチームによるもので本人は制作自体にはほとんど関わっていないそうです。 こうしたデザイナー的なバランス感覚や、キュレーション能力こそが、彼を世界的に有名にした本当の力でもあり、自身を薬物依存まで追い詰めた劣等感でもあるのかもしれません。

Damien Hirst talks about “A Thousand Years”
アート作品“A Thousand Years”について語るダミアン・ハースト

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