最近周りで富士登山者が続出する中、完全に今年の登山期を逃したアルバトロデザイン代表 猪飼です。 9月以降の富士登山は大変危険な為、それなりの登山経験者でないとお勧めできないそうです。 そんな富士ブルーの中、ならばという事で毎年富士のふもとで行われる自衛隊の富士総合火力演習に行ってきました。 自衛隊が山へ向けてひたすら火力を集中する姿を観て、山が痛そう…あんな武器で狙われたくないなぁ…戦争怖い!!等と思いながらも本日紹介する人狼というアニメを思い出しました。 人狼は押井守によるアニメで、第二次世界大戦以降の日本のパラレルワールドを舞台としています。 かなり男くさい世界観で、女性にはあまりオススメしにくいアニメなのですが、政治、裏切り、武力、哀愁で構成されたストーリー、時代背景の作りこみがすごいです。 ある意味アニメという枠を超えて、完璧な時代設定としても評価されるべき作品です。 元々アニメ監督を目指していなかった押井守の、大人の男のアニメ「人狼」は、アニメ慣れしていない方には特にオススメの作品です。 

1.人狼の時代設定

2000年6月に公開されたアニメ映画「人狼」の世界は、昭和37年前後の日本を舞台にしていますが、実際の日本の昭和37年とはすこし異なります。 物語は、第二次世界大戦でアメリカが戦争に不参戦で、日本はイギリスと同盟してドイツ・イタリア枢軸国と戦い、ドイツ軍に敗戦して占領されたという架空の設定の上で進行します。

しかしあくまでドイツとの戦争に敗戦し、(現実のアメリカではなく)「ドイツの占領下におかれた日本」という
設定であり、この架空の戦争シーンについてはアニメでは一切描写されていません。

アニメ「人狼」で描写されているのは、国の手先として戦う警官と反政府団体の若い娘との恋愛、そしてその裏で渦巻く戦後治安が悪化した日本での警察、軍隊、特殊警察「首都警」の3つの勢力の権力争いです。 とても込入った政治の話や、不要となった国家の武力団体同士の抗争に巻き込まれる末端の人々の悲しい話が昭和日本のパラレルワールドにうまくマッチして、とてもアニメとは思えない哀愁漂う作品となっています。

 また、実はあまり登場しませんが架空の勢力「首都圏治安警察機構」通称「首都警」と呼ばれる首都圏の反政府団体に対抗して構成された武力組織の圧倒的な戦闘シーンも作品の見所のひとつとなっています。

人狼 JIN-ROH Trailer

2.アニメ「人狼」のストーリー

アニメ映画「人狼」の話は前記した緻密な時代設定の上に、政治的な権力争いとその狭間で苦しむ若者達という設定がベースとなっています。 あらすじをWikipediaから抜粋します。

「あの決定的な敗戦から十数年」–第二次世界大戦の戦敗国・日本。戦勝国ドイツによる占領統治下の混迷からようやく抜け出し、国際社会への復帰のために強行された経済政策は、失業者と凶悪犯罪の増加、またセクトと呼ばれる過激派集団の形成を促していた。そして本来それらに対応するはずの自治体警察の能力を超えた武装闘争が、深刻な社会問題と化していた。政府は、国家警察への昇格を目論む自治警を牽制し、同時に自衛隊の治安出動を回避するため、高い戦闘力を持つ警察機関として「首都圏治安警察機構」通称「首都警」を組織した。

そんな情勢下での東京。街頭では学生らのデモが行われており、警視庁の機動隊がこれと対峙している。その後方には共同警備の首都警部隊が待機していたが、特機隊副長の半田はデモ隊にセクトの人間が紛れ込んでいることを察していながら、「この場の指揮権は自治警にある」と傍観を続けていた。一方セクトの面々はこのデモに乗じて機動隊を攻撃しようと、地下水路を活用して仲間に火炎瓶などを供給していた。セクトのメンバーが「赤ずきん」と呼ぶ物資輸送係を務める阿川七生は、セクトの仲間から鞄に偽装した投擲爆弾を受け取り、人で溢れかえる街路でこれを他のメンバーに渡した。野次馬とデモ隊に紛れたメンバーは走って正面にでると、信管を作動させる紐を引き、鞄を機動隊に向けて投げつけた。投擲爆弾が作動すると、街路は大きな炎と爆音に包まれる。機動隊員は吹き飛ばされ、盾は木の葉のように宙を舞う。出動服が火がつく者、目を負傷し視力が奪われるものなど、負傷者が続出。ついに機動隊の指揮官は全員検挙の号令を出し、両者が本格的に衝突する。

地上の混乱をよそに地下水路を移動していたセクトのメンバーらだったが、途中で首都警の戦闘部隊「特機隊」に囲まれてしまう。無表情なマスクと鎧のような装甲服を身に纏い、汎用機関銃(MG42)を構えた異様な姿の特機隊員たち。特機隊はメンバーらに武器を捨て投降するよう指示するが、彼らは半狂乱の様相で特機隊にサブマシンガンを乱射し始める。これに特機隊も直ちに応戦。メンバーらは汎用機関銃によって蜂の巣にされてしまう。

この音を、阿川は地下水路の別の場所で聞いていた。特機隊によって仲間がやられたことを悟って逃走を試みるが、彼女も間もなく特機隊に包囲されてしまう。包囲した隊員の一人、伏一貴巡査は投降を呼びかけるが、少女は投擲爆弾での自爆を試みる。「なぜだ」伏は戸惑いのあまり、仲間からの射撃指示も耳に入らない。阿川は意を決し、信管を作動させる紐を引き抜いた。伏を庇って覆いかぶさる仲間の特機隊員。間髪入れず、地下水道は爆音に包まれた。この爆発の影響で地上は停電に見舞われ、機動隊と対立していたデモ隊はその闇に乗じて逃走してしまう。

数日後、首都警幹部らが今後の対応策について話し合っていた。元々特機隊の攻撃的姿勢が世論に指弾されていた上に、爆発による停電で機動隊がデモ隊の検挙に失敗しており、警視庁からの批判がより強くなっていたのだ。警視庁と首都警の縄張り問題で思うように動けないことに不満を持っていた特機隊長・巽は、自治警との共同警備体制を破棄するよう主張する。だが警備部長の安仁屋や、警視庁と独自のパイプを持ちつつある思惑を内に隠している公安部長の室戸は慎重論を唱える。結局、適切な行動を取らなかった伏に何らかの処分を下すことのみ決定し、話し合いは終了した。後日、査問会にて責任を問われた伏は、首都警特機隊養成学校での再訓練を命じられる。

伏は養成学校の同期で友人でもある公安部の辺見に頼み、自爆した少女のことを調べてもらった。辺見に教えられた、阿川の遺骨が納められている共同墓地を訪れる伏。阿川家の墓の所へつくと、その前に一人の少女が立っていた。彼女は圭と名乗り、死んだ阿川の姉だと言う。その出会いをきっかけに交流を始めた2人は、徐々にその関係を深めていく。だがそれは室戸と、彼の下で働く辺見が企てた罠だった。やがて事態は、特機隊が警視庁公安部と、その背後にある首都警公安部と銃火を交える警察の「内戦」へと発展していく。

(以上、Wikipediaより)

人狼 JIN-ROH opening 1/2 (注: 過激な表現があります)

人狼 JIN-ROH opening 2/2(注: 過激な表現があります)

3.ケルベロス・サーガを舞台にしたメディア・ミックス

実はこのアニメ映画「人狼」は、この世界観を確立した押井守監督による「ケロベロス・サーガ」とよばれる一連の作品郡の1部です。 元々実写に強い興味のあった押井監督は自身の強烈な時代設定の上で、メディアミックス(実写映画・アニメ・漫画・小説等プラットフォームを特定しないで展開する手法)で既に実写映画を2本、マンガを2冊を発表しています。

このケルベロス・サーガ作品達は興行的には失敗していましたが、本作のアニメ「人狼」で根強いファンを多く獲得し、「人狼」以降は漫画、小説等精力的に発売しています。 また、深作健太監督での実写映画の話も近年浮上しているそうです。

ケルベロス ~地獄の番犬 予告編

実写映画 「ケルベロス 地獄の番犬」 銃撃シーン

4.押井守のケルベロスにかける想い

ケルベロス・サーガで共通して圧倒的存在感を放っているのが動甲冑「プロテクトギア」、物語では通称ケルベロスと呼ばれる甲冑服です。 事実、ケルベロス・サーガの作品内で最も人気のある存在で、フィギュアや模型が耐えることの無い人気を誇っています。

そもそも押井守はこのプロテクトギアを着たケルベロスが活躍する世界を描きたいと思い、全ての世界観を作っていったそうです。 人狼の世界観は、ドイツ軍のような格好をしているケルベロスの、ある意味後付けとして設定された世界観とも言えるそうです。

ちなみにこのケルベロスのデザインですが、キャラクターデザインで有名なイラストレーター出渕 裕(いづぶち ゆたか)が当初担当していました。 しかしSF的な表現をする出渕のイメージと、機能的で無骨さを愛する押井はケルベロスの造形に対してよく対立していたそうです。

5.人狼 JIN-ROH まとめ

そんなこんなで、自衛隊の総火演を観にいった結論は「戦争は怖い」だったのですが、こうした軍事独特の雰囲気をエンターテイメントとして吐き出すという意味では、自衛隊の総火演も今回紹介した人狼も同じ位置にいるのかもしれません。

特にこのアニメ「人狼」は大人のアニメという意味では決定的な作りになっていると思います。 押井守の他の有名作品「攻殻機動隊」や「パトレイバー」、「うる星やつら」がありますが、どれも押井守独特の”リアルな軍事”という側面が生かされてはいるものの、全面的に押し出されているという訳ではなく、あくまでSF的な世界の中のスパイスとして混入されています。

その点、この映画「人狼」は押井守の無骨なダンディズムが前回に表現され、アニメでしか表現できない見所も押さえた男くさい大人のアニメの決定版と言えると思います。