ロマン・カチャーノフ Roman Kachanov チェブラーシカ、ミトンを送り出したロシアの人形アニメーション監督




  仕事と五月病に加えて、プライベートもうまくいかない、ないない尽くしのアルバトロデザイン代表 猪飼です。 そんな惨めな気持ちは梅雨に流して、今日も気分転換にブログ記事を書こうと思います。 さて、本日は私の大好きなアニメーター、ユーリ・ノルシュテインの師匠であるロマン・カチャーノフについてです。 パペットアニメを主体としたロシア・アニメの核を作り出したクリエイターであると共に、ロマン・カチャーノフの制作したアニメは今でも世界的な人気を持つという実力有り、功績有り、名前も素敵なロマン・カチャーノフです。 

1.ロマン・カチャーノフ (Roman Kachanov 1921-1983)

ロマン・カチャーノフは大学卒業後、モスクワのソビエト連邦のアニメーションスタジオ監督コースを1947年に修了し、「森は生きている」、「せむしの仔馬」等で有名な当時トップのアニメーション監督イワン・イワノフ=ワノ(Ivan Ivanov-Vano)の元に弟子入りします。 当時アニメーション監督というのは新しい技術ではあったものの、専門的な知識と高級な機材、ソビエト連邦との関係など個人で気楽に手を出せる分野ではなく、強い師弟関係が技術、バックグラウンド共に大切な世界でした。

ロマン・カチャーノフは体も強く、アニメーションに本格的にのめり込む前はボクサーとしても活躍していたそうです。 ディズニーに強く影響を受けた美しく幻想的な背景描写、なめらかなアニメ技法をロシアに持ち込んだイワン・イワノフの元で美術監督を務めたロマン・カチャーノフは友人ナトーリ・カラノーヴィチと共同で「老人と鶴」(1958年)を発表し、人形アニメーションの監督として初デビューをはたしました。

ロマン・カチャーノフのデビュー後の作品リストは下記の通り (Wikipediaより)

・老人と鶴Старик и журавль(1958年)
・恋する雲Влюблённое облако(1959年)
・ミトンVarezhka(邦題は「手袋」とも。1967年)
・レターPismo(邦題は「手紙」とも。1970年 )
・ママ(1972年)
・チェブラーシカ シリーズ(1969年、1971年、1974年、1983年)
・オーロラ(1973年)
・最後の花びら(1977年) - セルアニメ作品
・第三惑星の秘密(1981年) - セルアニメ作品

リストからも分かるとおり、人形アニメでスタートして成功を収めたロマン・カチャーノフですが、1970代以降はセルアニメに手を出しています。 また、1970年代以降は子供向けの作品よりも社会問題等も取り扱った大人向けな作品が多く、「第三惑星の秘密」はSF長編作として密かに映像マニアから異色作として支持を受け続けています。

 
制作チームと一緒に 左から二番目がロマン・カチャーノフです

 
制作スタジオで 真ん中のオーラが違う黒ジャケットがロマン・カチャーノフです

2.ロマン・カチャーノフの作風とソビエト連邦の体制

ロマン・カチャーノフ作品の特徴といえば、当時のパペットアニメを逸脱した繊細で生き生きした動きのアニメーションでした。 現在でもパペットアニメは1コマ1コマ手で動かさなくてはならないので、ロマン・カチャーノフの作品は参考にされるほどです。 代表作の1つ「ミトン」では主人公の子供の感情から、指の動き1つ1つを細かく表現したアニメーション作品となっており、当時のパペットアニメーションのクオリティ水準を一気に引き上げ、革命的な作品として崇拝されました。

また、ロマン・カチャーノフは厳しいソビエト連邦下でのアニメーション制作の中の為、「ミトン」や「チェブラーシカ」など、かわいらしく、子供向けなファンタジー作品を多く作りました。 その緻密で繊細なアニメーションは技術だけでも世界の注目の的となりましたが、ロマン・カチャーノフはその子供向けアニメの中にも少しずつ倫理、合理性、体制といった社会環境への疑問や主張を織り交ぜていました。

映像技術だけでなく、社会や作品への意義、また後に世界的なアニメーターとなるユーリ・ノルシュテインへの教育など、全てを革新的にこなすことのできる技量の持ち主だったといいます。

 

 

 

 

 

 

 Mitten (with English subtitles). Варежка
ミトン本編 (英語字幕付き)

 

 

 

 

Cheburashka Tribute
比較的初期のチェブラーシカの映像と音楽

Cheburashka
チェブラーシカ

チェブラーシカ 電車の上でのワニさんの歌
Песня Крокодила Гены (голубой вагон- русская версия)

3.弟子ユーリ・ノルシュテインと師匠ロマン・カチャーノフ

私、猪飼も尊敬するアーティストでは欠かすことのできない存在であるユーリ・ノルシュテインはロシアを代表するユダヤ系アニメーターです。 絵画アニメーターのアレクサンドル・ペトロフの師匠でもあり、世界中のあらゆるアーティストに強い影響を与えた人物です。 日本では手塚治虫や、宮崎駿、高畑勲が強い影響を受けて自らの作品を作った事を認めており、とても気さくなユーリ・ノルシュテインとは作品について相談したりと個人的に連絡を取り合うような人間関係も築いていたそうです。

そんな世界的にアニメーションの神様として崇められているユーリ・ノルシュテインの最も敬愛した師匠がロマン・カチャーノフとなります。 ロマン・カチャーノフとユーリ・ノルシュテインは師弟関係をベースに絶対的な信頼関係を築いており、ユーリ・ノルシュテインは今でも尊敬と、感謝の意を忘れたことは無いそうです。

世界中誰にも近づけないほどの孤高の映像アーティストであったロマン・カチャーノフはいつもいいアイデアをユーリ・ノルシュテインに打ち明けるのを楽しみに仕事をしていたそうです。 そんな師弟関係について、ユーリ・ノルシュテインは下記のように語っています。

『ロマン・カチャーノフは私にとって、本当に素晴らしい監督そして人間として、いつまでも生き続けています。彼は、信じられないくらい喜びに満ちた人で、機知に富んでいました。
ロマン・カチャーノフの監督としてのすぐれた点で未だに忘れられないのは、とてもディテールに気を配り、必ず細かいことに気がつくことです。なにか面白いことを思いつくと、私のところに来て話してくれるんです。そして、「良いことを思いついただろう」というので、「ううむ、思いつきましたねえ」と私が言うと、今度は皆のところに話しに行くんです。もう、とっても鷹揚で何でも差し出してしまう人。 そして、人の嫉妬というものは受け付けなかった。何故かというと、嫉妬のしようがないほど、とても水準が高かったのです。』 (『シネマティズム』 第4号、p. 24)

ユーリ・ノルシュテインはその後アニメーターとして独立し、師をも凌ぐ勢いで様々なアニメーション作品を作り上げていきます。 しかし、どんなに有名になってもユーリ・ノルシュテインはどんな相手とも人間関係をとても大切にし、「よい作品はよい人間関係からしか生まれない」という信条を公言して仕事をしているそうです。 こうしたユーリ・ノルシュテインの考えはロマン・カチャーノフとの絶対的な信頼関係から確立されたのかもしれませんね。

 Roman Kachanov’s “Obida” (1962)
ロマン・カチャーノフの「Obida」 電気的な色合いが美しい切り絵アニメ

Roman Kachanov – Mama (1972)
ロマン・カチャーノフの「Mama」
社会的な大人のアニメをパペットアニメで表現した話題作です。
音楽も大人っぽくて、映像も白を基調としたとてもオシャレなアニメです。

Roman Kachanov – Pismo AKA Letter [1970]
ロマン・カチャーノフの「手紙」(Letter)
音楽だけの無声アニメです。 ロシアらしいどこか物悲しく、静かで美しい映像です。

4.ロマン・カチャーノフまとめ

映像を見てもわかるように、パペットアニメを通して技術だけでなく展開や色、そして独特のセンスでまとめられた作品の世界観はさすが天才です。 映像を緻密に作りこむだけでなく、スタッフや弟子達と楽しんで作っているのがわかります。  ロマン・カチャーノフの映像は大人の女性は大人らしく、子供やキャラクターはとてもかわいらしく、といった雰囲気作りもうまく、観ていてどこか人を惹き付ける力を持っています。

ちなみにチェブラーシカではユーリ・ノルシュテインがワニのゲーナの声を担当しています。 チェブラーシカ自身は正体不明の生き物という設定で、どこか80s映画「グレムリン」のギズモを彷彿とさせますね。 (ギズモも正体不明の中国の生き物という設定だったので)

いつかまた、チェブラーシカにも焦点を当てて記事にしてみたいと思います。 以上、不思議な魅力を持つロシアン・アニメーションでロマン・カチャーノフでした。

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2 Comments

  1. 『ミトン』『チェブラーシュカ』両方とも見ましたが、あの当時のパペットアニメってアナログさがいいと言うか、素朴と言うか、とにかく凄く魅力的です。
    『チェブラーシュカ』が一体お猿なのか、なんの動物なのかわからない、独特の可愛さをもつ姿とロシア語の声もたまらないです。
    チェコのKarell Zemannのパペットアニメも、違うテイストですが
    最近ようやくお目にかかることができて、面白いですよ!

  2. IKAI

    >anemoneさん
    こんにちわ。古い作品は、限られた手段の中ですが、無駄が少なくて今観ても完成度が高いものも多いですよね。
    Karell Zemann、ネットで観ました! 面白いですね。映像も、色合いもすごくいいです。これはしっかり調べなくては!笑
    しかしDVD高い・・・私もいつかは手に入れて、ちゃんとDVDで観たいです!

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