ざくろの色 セルゲイ・パラジャーノフによるアルメニア文化の陶酔的色彩の映像世界




  腰痛もいよいよ限界のアルバトロデザイン代表 猪飼です。 最近は気温の変化が多く、体調管理が難しいところですがそれよりもなによりも腰痛が辛いです・・・座り仕事はどうしても腰や背中に来るものです。 最近は寝る前に映画を観る習慣があり、年代もジャンルもばらばらですが、毎日の映画が楽しみになりつつあります。 映画は見方によってかなり評価が変わるのも面白いところです。 ストーリーや信憑性を評価基準にする人もいれば、世界観や全体の雰囲気だったり、演技や演出を中心に評価する人もいます。 作り手も、観方も人それぞれなところが映画の醍醐味なのかもしれませんね。 本日はかなり特殊な映画を作る、ロシアのセルゲイ・パラジャーの映画「ざくろの色」についてです。 日本でも根強い人気により、最近また再発されましたがかなり評価の分かれる映画であるかもしれません。

1.セルゲイ・パラジャーノフという人物

本日ご紹介する映画「ざくろの色」は、1969年にセルゲイ・パラジャーノフという旧ソ連グルジア出身の監督、セルゲイ・パラジャーノフによって撮られた映画です。 セルゲイ・パラジャーノフ監督の非常に面白いところは鮮烈な色使い、シンメトリーな構図など、独特な映像の撮り方にもありますが、そもそもパラジャーノフ自信が映像に関していわゆる他の映像監督とは全く異なった感覚を持っていたところにあります。

セルゲイ・パラジャーノフにとっての映像作品とは、「個性」そのものでした。 本を読むよりも人を観察し、自分の感じた事を映像として表現するのがセルゲイ・パラジャーノフ流の映像制作であり、決して過去の作品やセオリーに則って作るような物ではないと信じていました。 よって、パラジャーノフは今までに築かれた映画文法(映画を効率的に構成する為のルール)を完全に無視し、独自の手法で映像を作り上げていきました。

驚くべき点は、技術としては素人がなんの勉強もなしにカメラを回して我流で映像を撮ったような状態であるのに、パラジャーノフは見事に独自の映画文法を作り上げ、それが実に効果的に映画の中身と協調しあっているのです。 まさに、映像界の異端児と言えます。

2.セルゲイ・パラジャーノフの苦悩の歴史

そんな孤高の映像監督であるセルゲイ・パラジャーノフの映像作家としての人生は実に苦難の連続でした。 モスクワの全ロシア映画大学監督科を受講中に、悪友達との悪ふざけで逮捕されます。 これを機にモスクワの警察に目をつけられてしまったセルゲイ・パラジャーノフは、その後大学を卒業して1964年に長編映画「火の馬」や、「ヤサト・ノヴァ」(後の「ざくろの色」)を監督し、美しい色彩と独特な空気の漂う実に個性的な芸術映画を制作し、世界的に高い評価を受けるも、旧ソ国内では散々な不評に終わってしまいます。 それどころか、既存の映画文法を完全に無視し、新しい実験的な映像の繰り返しから構成されるセルゲイ・パラジャーノフ流の表現を危険思想と評し、激しく糾弾しました。 これを皮切りに、セルゲイ・パラジャーノフは旧ソ映画界から干されてしまい、パラジャーノフは幾度となく長編映画の企画を考えますが、どれも却下されてしまいました。

冷ややかな旧ソ連の映画界の対応にもめげずに、映像制作への夢を諦めなかったセルゲイ・パラジャーノフでしたが、1974年に突如として不当な罪状で5年間もの間懲役判決を下され、投獄されてしまいました。 これは旧ソの中でユダヤ人のような扱いを受けているアルメニア人への差別が原因でした。 アルメニア人であるセルゲイ・パラジャーノフは、自身の映画でアルメニア人の民族的な美しさを陶酔的に表現するという手法がパラジャーノフの作家としての個性であったのが、仇となった結果でした。 日本ではあまり馴染みのないアルメニア人は、単性論のアルメニア教会信者がほとんどで、かつてはアルメニア系王朝が建てられたほど強大な力を持っていましたが、東ローマ帝国の衰退、崩壊と共に全世界へ拡散した民族です。

話は戻って、アルメニア民族色の非常に強い映画を撮ったセルゲイ・パラジャーノフは投獄され、過酷な労働や同性愛疑惑などを掛けられ酷い迫害を受けました。 この事態にパラジャーノフの作品の独自性を支持する世界中の映画関係者が立ち上がり、ヨーロッパを中心に抗議運動を行い、東国から3年も経った1977年に釈放されます。 しかしその後もソ連当局から2度に渡って無実の投獄や迫害を受け、肉体、身体的苦痛を与えられます。

30年以上、軟禁生活を強いられてきたパラジャーノフですが、ゴルバチョフ書記長に政権交代してからは映像作品の制作や出国が許可され、ヨーロッパの映画界が期待する中すぐに長編映画の制作に着手し、2つの映像作品を発表します。 両作品はその映像の独自性と美しさに、世界中から絶賛を受けます。 しかし3本目の自伝的映画の制作準備中に肺炎で死亡してしまいました。 パラジャーノフが66歳の時でした。 死因である肺炎は旧ソ時代の迫害によるものが強く、全世界から才能を発揮できなかった悲劇の天才映画監督として再評価されました。

 

 

3.アルメニア文化を陶酔的に描写した作品 「ざくろの色」

既に国を失った民であるアルメニア人の失われつつあるアルメニアの独自の文化を映像で陶酔的に表現したセルゲイ・パラジャーノフの代表的作品が、「ざくろの色」(The Color of Pomegranates)です。 1969年に撮られた「サヤト・ノヴァ」(Sayat Nova)のフィルムを後に再編集したものが「ざくろの色」であり、基本的には編集が異なる同一の作品です。

見所はアルメニア人の独特な生活や、宗教(アルメニア教はキリスト教をベースとした派生宗教です)、そしてそれらを美しく、色鮮やかに、静かに描写したどこか不思議で不気味なのに、強い陶酔性を感じるパラジャーノフ特有の映像美です。 なかなか表に出されることのないアルメニア文化は私たちにとってとても刺激的で、生活様式や衣装だけでも彼らの文化をヴィジュアルで強く感じる事ができます。

全てのカットが詩的で美しく、アルメニア人の習慣や思想もどこか現実離れをしていて、ゆるやかなストーリーに合わせて作られたカットの連鎖が芸術的陶酔感を生み出します。 独自性があり、なによりも芸術的であったパラジャーノフの作品は、現在でも「新しい映画」として世界で愛されています。

 

 

4. 「ざくろの色」(サヤト・ノヴァ)のストーリー

第一章 詩人の幼年時代
雷雨に濡れた膨大な書物を干して乾かす日常の風景に、染色をする女性達。 まだ幼いサヤト・ノヴァの、書物への愛の芽生えと、子供の目からみるアルメニア人の生活。

第二章 詩人の青年時代
青年となり、宮廷詩人となったサヤト・ノヴァは宮廷の王妃と恋をする。 サヤト・ノヴァは琴の才に秀で、愛の詩を王妃の為に捧げる。

第三章 王の館
王は狩りに出掛け、神に祈りが捧げられる。王妃との悲恋は、詩人を死の予感で満たす。

第四章 修道院
詩人サヤト・ノヴァは修道院に幽閉されてしまい、生涯アルメニア教会の世界で生きることに。 そこにあるのは婚礼の喜び、宴の聖歌、そしてカザロス大司教の崩御の悲しみだった。

第五章 詩人の夢
夢のなかにはすべての過去がある。 詩人は夢の中で幼い詩人、両親、王妃に会う。

第六章 詩人の老年時代
詩人サヤト・ノヴァの眼差しは涙に閉ざされ、理性は熱に侵された。心傷つき、彼は長年暮らした寺院を去る事を決意する。

第七章 死の天使との出会い
死神が詩人の胸を血で汚す、それともそれはざくろの汁か。

第八章 詩人の死
詩人は死に、彼方へと続く一本の道を手探りで進む。だが肉体は滅びても、その詩才は不滅なのだ。

Sayat Nova
「サヤト・ノヴァ」の1シーン(王妃への求愛シーン)

Conta de Burguês vs Sayat Nova
「サヤト・ノヴァ」の映像リミックス (音楽はConta de Burguêsによるものです)

Sayat Nova – la couleur de la grenade 1
「ざくろの色」 1/5

Sayat Nova – la couleur de la grenade 2
「ざくろの色」 2/5

Sayat Nova – la couleur de la grenade 3
「ざくろの色」 3/5

Sayat Nova – la couleur de la grenade 3
「ざくろの色」 4/5

Sayat Nova – la couleur de la grenade 5 (fin)
「ざくろの色」 5/5

Related Post 関連記事
Anatoly Beloschin アナトリー・ベロンシュン ロシアの水中幻想カメラマン   皆様こんにちは!インターンの山田です。もう8月になりましたね。毎日蒸し暑い日々が続きますが、かき氷がとても美味しく思えます。夏なのにどこにも行けていないのですが、せめて...
ロシアンアヴァンギャルドの歴史とグラフィック作品紹介      先日会社の飲み会で初めて記憶をなくした猪飼です。歳には勝てません。 さて話はめっきり変わりますが、アルバトロデザインで近日頂けるかもしれない仕事の中で、ロシアンアヴァン...
ロマン・カチャーノフ Roman Kachanov チェブラーシカ、ミトンを送り出したロシアの人形アニメーション監督   仕事と五月病に加えて、プライベートもうまくいかない、ないない尽くしのアルバトロデザイン代表 猪飼です。 そんな惨めな気持ちは梅雨に流して、今日も気分転換にブログ記事を書こう...
十字架の丘 Hill of crosses リトアニアの非暴力の抵抗が生んだ奇跡の丘  今月は売上が少ないので、事務所の物をヤフオクに出品して凌ごうかとすら考えているアルバトロデザイン代表 猪飼です。 デザイン事務所も楽ではありません。 うまくいかない単調な日々...
ロシアの現代カートゥーンアニメのざっくり感がすごい!!     喉の痛みはひいたものの、あいかわらず体のだるさに悩まされている代表 猪飼です。 仕事も山積みで、はやくフル稼働できる人間になりたいです。 さて、最近アニメやコミック色が強...








にほんブログ村 デザインブログへ FC2 ブログランキングへ 人気ブログランキングへ

← Previous post

Next post →

3 Comments

  1. 初めまして。
    『ロシアアヴァンギャルド』で検索をかけていたらこちらにたどり着きました。セルゲイ・パラジャーノフは私の映画観をがらりと変えた映画監督です。私の彼の作品デビューは『火の馬』だったんですが、これで最近のアメリカ映画等がゴミのように思わされた、とてつもなく凄い映像美で、もう泣きそうになりました。
    この『ざくろの色』も見ましたが、やっぱり凄い映像美でした。
    私にとっては詩的な話を理解すると言うより、感覚で見る映画なのではないかという風に捉えてます。もう尊敬すべき監督です。
    他にも面白そうなロシア系の記事をお持ちみたいなので、又遊びにきます☆

  2. IKAI

    >abemoneさん
    初めまして! 書き込みありがとうございます。
    セルゲイ・パラジャーノフは悲劇的な人生でしたが、作品は実に独創的な美しさを持っていますよね。 うちの事務所でも昔スクリーンで上映会をしました。いつもストーリーを先に調べてから見るのですが、映像の構成や色彩、マテリアルが本当におもしろいですよね! ロシア系アーティストだと、近々ユーリ・ノルシュテンやロマン・カチャーノフ(チェブラーシカ)、アレクサンドル・ペトロフ(老人と海)等の記事も書こうと思っていますので、是非また時間のあるときに覗きにきてくださいね!

  3. 六本木で「パラジャ−ノフ祭」開催以来のファンです。
    パラジャーノフ作品、と一目でわかる映像美なのに、
    アルメニア、グルジア、アゼルバイジャンそれぞれの美が凝縮されたような画像!
    マエストロは天才だと思います。
    IKAI様、有難うございます。

コメントを残す